【感想】ブラックパワー・ミックステープ~アメリカの光と影~
さてみなさん、今回は、最近見た映画についての感想です。
GYAO!で見られる映画を探していたら、気になる映画を見つけました。
無料視聴期間は1/8 までらしい。
光の裏には影がある。そんな影に焦点を当てた作品。
1/9追記:GYAO!のWEBページを貼っていましたが、視聴期間が終了したためリンク切れとなってしまいました。
▼こちらの映画です。
(以上追記終わり)
シネマトゥデイからの解説によると、
約30年もの間、スウェーデンのテレビ局に保存されていたアメリカのブラックパワー運動の希少な映像を再編集した衝撃のドキュメンタリー。それらを発見したゴーラン・ヒューゴ・オールセン監督が、1960年代から1970年代にかけての激動の時代を浮き彫りにする。歌手のエリカ・バドゥら、現在アメリカで活躍する多数の著名人がコメントを寄せた。差別や貧困にあえぎながらも、市民権と平等を得るため戦った彼らの姿が感動を呼ぶ。
アメリカに奴隷として連れて来られたアフリカ系アメリカ人たちは、長い間差別を受け続けてきた。その屈辱の歴史を変えるべく、1960年代後半から1970年代にかけて、彼らは市民権の適用と人種差別の解消を求めて団結する。マーティン・ルーサー・キング牧師やマルコムX、アンジェラ・デイヴィスらは、本物の自由を得るためにそれぞれのやり方で活動を続けた。
解説・あらすじ - ブラックパワー・ミックステープ ~アメリカの光と影~ - 作品 - Yahoo!映画より
まず感じたのは、僕は人種差別問題について知らないことだらけだったな、ということです。
1960年代から1970年代にかけての激動の時代。忘れないうちに、この映画を通じて知ったことを大きく2つほど記しておきたいと思います。
非暴力の限界!?
キング牧師は、人種差別問題を解決するに当たり、非暴力を訴えました。
『非暴力こそがアメリカの黒人の利益になる』
『非暴力に徹して苦しみに耐えていれば、相手がそれを見て痛みを理解し、やがて心を動かされて考え方を変えるだろう』
これは、ガンジーの非暴力主義の影響を受けているとのこと。
しかし、
『非暴力で相手を動かすには、相手に良心が必要だ。アメリカに良心なんかない』
と、差別撤廃闘争の指導者、ストークリー・カーマイケルは言う。
そして、ブラックパンサー党という平和を理念に掲げた武装政治組織ができる。
ここでのポイントは、武装までして危険な集団ではなのか?という考えについて。
もちろん、どちらの側であろうが、いかなる理由があっても人を傷付けるのは良いことではない。
しかし、いつまでも続く暴力に非暴力で立ち向かい続けられるほど人は強くない。
武装なんて、やりたくてやっているわけではないはずだ。
また、活動家アンジェラ・デイヴィスも、自分たちが黒人というだけでどれだけ尊厳を傷つけられ、命すら軽視され弄ばれてきたか、ということを訴える。
そんな私たちに、「あなた達は、暴力を認めているのか」と、どうして言えるのかと。
このインタビューのシーンはものすごく考えさせられます。
暴力を解決の手段にしてはいけない。キング牧師もそう言っているし、それはそうだが、それだけではやりきれない。僕なんかでは到底計り知れない苦悩が溢れている。
人種差別を受ける側も暴力で対抗してしまうことについて、
ほらやっぱり、黒人って怖い。だから行動を管理して弾圧し続けなければ。自由を与えるなんてとんでもない。と、相手の思惑に乗っかってしまわないか。一部の差別主義のマスコミの餌食になってしまわないか、そしてそういった世論が広まっていかないか。黒人側が起こす防衛のためのちょっとした暴力が白人のそれよりも大きく報道されるのは想像に難くない。結果的に差別が広がってしまうのではないか。実際映像の中で、スラム街を白人ばかりが乗ったはとバスのような観光バスが通り抜けるシーンがあり、バスガイドはスラム街にたむろする若者たちを指して、この麻薬に汚染された者達がいかに危険か、暴力的かと乗客に説明する。一部の良心のないアメリカ人達の思惑通り、黒人=乱暴・危険 という作られた常識が流布されていく。
だからといって、非暴力を貫き殴られ続けるのが正しいのか。それが無駄だったことはすでに証明されていたからこそなわけで。影は深い。
スラム街に麻薬(ヘロイン)を持ち込んだのは誰?それはなぜ?
スラム街に蔓延していく麻薬(ヘロイン、クラック)。この映画では1974年頃のスラム街の状況について取り上げられている。日常的に麻薬中毒で亡くなっていく住民たち。13歳から15歳の若者が病院に担ぎ込まれるケースが多いという。
日々麻薬患者が運ばれてくる病院の医師は、麻薬の流通に一役買っているのが白人なのだという。
60年代に色々なものの見方や価値観が変わった。そして、「ブラック・イズ・ビューティフル」という言葉が流行ったり、ブラックパワー運動やアフロヘアも生み出され、黒人たちが自分たちを取り戻そうという運動が盛んになってきた。そういった流れをストップさせるために用いられたのが麻薬だったというわけだ。
黒人たちの居住区に麻薬を蔓延させて街ごと破壊する。麻薬を手に入れるにはお金が必要だが、お金はない。でも麻薬がほしい。どうするか?街は当然(思惑通り)めちゃくちゃになる。
元陸軍兵士の話。
66年(おそらくベトナム戦争時)、戦場での不安感からヘロインにはまる兵士たちが大勢いた。戦死者となってアメリカに帰ってくる兵士たち。
『遺族は敵にやられて死んだと思っているが、実際はヤクにやられて死んでいった』
そんなことは新聞には載っていないし、偉い連中は知っていたが公表はしない。
また、帰還できた若い兵士たちは麻薬の中毒症状を抱えていたということも珍しくなく、それが黒人社会に深刻な影響を及ぼして地域の麻薬問題に発展した。
『これほど麻薬が広がった背景には間違いなく政府とCIAの関与があるはずです』
『麻薬が蔓延したことで、黒人社会は様変わりして、多くの黒人から闘争心と革命への欲求が失われました』
と、アンジェラ・デイヴィスは言う。
なぜ、貧しい地域であるスラム街に安価では手に入らない麻薬が蔓延しているのか。
そして街が崩壊し、黒人たちの闘争心や革命への欲求が失われていくことで誰が得をするのか。そういったことを考えると、見えてくるものがありそうです。
麻薬に手を出してしまうような状況を作って、麻薬に手を出させる。こんなことが政府ぐるみで本当に行われていたのだとしたら……そんなことは考えたくもないですが、『アメリカに良心なんかない』というストークリー・カーマイケルの言葉が蘇ります。
自由の国アメリカ。その光と影。
アメリカンドリームという言葉がある。しかし、そのスタートラインにも立たせてもらえない差別を受けている人たちが今も存在する。教育を受けられるどころか、今日、明日食べるものもない子どもたちが大勢いるということが描かれていく。本当にその影は深い。
以上、この映画を見ての個人的感想でした。
差別、反戦、弾圧、麻薬などなどの影の部分に焦点を当てた映画。
これは遠いアメリカだけの話ではない、考えさせられる良い映画でした。
<参考に>
ブラックパワーとは
マーティン・ルーサー・キング・ジュニア - Wikipedia
ストークリー・カーマイケル
アンジェラ・デイヴィス
▲映画のポスター